ITと哲学と

IT系エンジニアによる技術と哲学のお話。

事業を創る人の大研究を読んだ

「事業を創る人」の大研究を読んだ.

タイトルの通り「人」に着目した新規事業立ち上げに関する本で,独自研究で得られた沢山のデータをもとに考察を進めていくというスタイルの本でとても参考になったので要点をまとめてみようと思う.

本書との出会い

本屋さんでパラパラと新規事業関連の書籍を探していた際に『はじめに』を立ち読みし「あるあるw」と共感し,続きが気になったので,さらに序章を読んだところ「あるあるあるあるw」と深く共感したので購入した.

簡単にまとめると「新規事業ってなんか大変そうだし,あんまり関わりたくないよねw」というのと「新規事業って社内からの風当たり強いよね」という点に共感した.

ターゲット

既存事業がある会社における新規事業立ち上げをターゲットにしている. スタートアップ企業を立ち上げましょうとかそういうことではない点が通底して重要な特徴になっている.これによって様々な軋轢が生まれる.

ターゲットとしているロールは,新規事業を創る人自身はもとより,それを支える上司や経営層を主に狙っているように思う. 本書では「人」として「創る人」「支える人」「育む組織」の3つをあげているが,育む組織の人に遍く届くようにというよりは,むしろ組織をつくる人(つまり経営層)をターゲットにしていると思われる.

本書の立ち位置

新規事業立ち上げに関する書籍は色々ある.カリスマ経営者的な人の自伝に近いような実践系の書籍と学術的な研究に基づく学術書の2つに分けられる. 本書は学術書に分類されるものであり,学術書の中でも新規事業立ち上げについて「人」に着目した点がユニークな点となっているとのこと.

つまり他の書籍とは異なりプロセスから人へ視点を移した点が面白いところ.結局人だよねーという.

第1章

新規事業を取り巻く環境

新規事業を「既存事業でえたモノを活用し,新たな経済効果を生み出す事業」と定義している. 既存事業で得たモノを活用するという点がポイントになる.

ライフスタイルの変化により,新規事業をつくるというのは企業にとって生存戦略として必要不可欠なものになりつつある.

なお,それだけにこれに対する期待はとても大きいようで,「予算的には成功しているプロジェクトであっても経営層の満足度は低く満たされないケースが多い」という面白いデータが示されている.

これ,ゴールポストが動いているということであり,担当者にとっては悪夢でしかない...ちなみにこの問題自体については今後議論されない.

新規事業に必要な能力

新しいアイディアを形にして,それをお客様に届けることができて初めて新たな経済効果が生み出せる.

独自研究で得られたデータから経営者は新規事業を進めていくためには「新しいアイディアを考えて,未知を恐れず,最後まで突き進むことができる」力が必要だと考えているケースが多いらしい.

一方で,新規事業立ち上げ担当が実践を通じて必要だと感じた力は「現場を正しく観察し,上手に他者を巻き込める」力である. 新規事業を立ち上げるために,社内からの理解が得られず苦しむというケースがとても多かった模様.

この結果から,これから新しく担当になる人は社内理解をいかに得るかという点をもっと意識した方が良さそうに思った. これができるかどうかってかなり人間力が問われるテーマだと思う.

特に新規事業はその構造から社内からの風当たりが強くなりがちだし,孤立しがち.しんどいことも多い. その証拠に,新規事業を去っていく人の理由は「事業自体がうまくいかなかったことよりも,新規事業をめぐる構造によるもの」が多い.

まとめ

新規事業はアイディアそれ自身よりもいかに周囲を巻き込むかが大事であり,そこに人の力が問われる.さらに,新規事業の構造上,しんどいことが多いので,折れない心の力も大事.

いかに心が強い人でもサポートがないと折れてしまうので,支える人や組織がさらに大事.それらもマルッと含めて,人が大事ということ.

第3章

創る人に求められるスタンス

新規事業は結果が出るかどうかわからないものであり,業績志向になりすぎても結果が出るかどうかはわからない. むしろ事業を出そうというプロセス自体から学びを得て,それを糧にさらにブラッシュアップできるような成長志向のマインドセットが必要.

ゼロから試行錯誤しながら形作る経験からしか学べないことは大きい.これを学び,生かしていくマインドセットが重要.

事前知識があることの優位性

前述の通り,新規事業の構造からきているしんどさが多いので,嵌る可能性のある落とし穴が独自研究の成果から見つかっている. 11の問題とそれをまとめた4つのジレンマという形でそれらが以降の章でまとまっている.

これを知っておくことで,自分が今置かれている状況を俯瞰的に理解できるし,それによって「これは自分だけの固有の問題ではなく構造上の問題なんだ」とリフレーミングでき,前向きに問題に取り組めるようになる.

これが本書の大きな価値になっていると思う.

第4章

前述の11の問題について解説がある.が,個別具体的なこうしたら良いというのは残念ながら示されていない. 示されてはいないが,問題の粒度が大きいため,個別具体的な解決は状況によるところが大きいからこれは仕方ないと思う.

大事なのは,こういう問題が実際に起こりうるだろうということを理解しておくこと.

「既存事業部門からの批判」とか「新規事業プランを生み出せないジレンマ」あたりがとてもとても身につまされる.

既存事業部門からの批判

新規事業の人たちは何やってるかわからんというところが原因になってこの問題が起こるように思う. 何やってるかわからん人たちが,自分たちが必死に生み出した利益を食いつぶしているように見えるという構造が,この批判をうむ.

進め方や情報発信を考えてやっていかないと,簡単に孤立しまっせというお話.つらい...

新規事業プランを生み出せないジレンマ

創る人は,その事業が軌道に乗るまではできていない状態が続くわけで,できない自分の姿に苦しみ続けることになる.

第5章

新規事業を創る人はそんな感じで孤立したり,しんどかったりするようなので,それを折れないようにサポートする組織風土が必要だというお話.

事実として,他部門が新規事業を応援しようという組織風土は新規事業の業績を有意に高め,新規事業をお金の無駄だと思っている組織風土は業績を有意に下げるというデータもある.

若干ポジショントーク的に感じなくもないけど,データが出ている以上そういうことなのかなという印象. とはいえ,組織風土は片方が頑張って作れば良いものではもちろんないとも思う. 創る側の人も,自身がどう見られる可能性が高くて,実際にどう見られているのかということを常に自問して,事業を成功させるために社内の周囲との関係性づくりを怠ってはいけないんだと思う.

読了後まとめ

本書では人の側面が強く論じられていたけど,もちろん技術的な面やアイディアが出せるかという面も大事.というかそっちこそが前提だとは個人的に思う. その上で人としての力も求められるということで,新規事業を成功させるためには高い総合力が求められる.

そのための補助輪として本書は有用だと思う. 事前に予期できるだけで心構えができるし,準備もできる.自分だけが抱える問題じゃなくて構造上起こりうる問題なんだと捉えられるようになる点も,将来本書に助けられるところがあるかもしれない.

ところで,人間力ってどうしたらつくんでしょうね........

「事業を創る人」の大研究

「事業を創る人」の大研究